姫逃池

この物語は、三瓶山北之原の伝説に基づいた創作神楽である。親三瓶の北の麓一帯は池の中心にして、なだらかな起伏で美しい草原になっており、長者ヶ原と言われていた。その池の近くに大きな長者屋敷があり、長者の一人娘でお雪という可憐な娘がいた。お雪はこの屋敷の前を、焚き木を背負って通る若者に、いつしか恋をする様になっていた。その頃近くの野伏ヶ原に、村々を荒しまわる山賊の頭は、お雪を妻にと要求したが、長者に断られた事に腹を立て、お雪を奪う為屋敷に押しかけた。それを知った若者は、一人で山賊に挑んだが、追い詰められ池の辺で遂に切り捨てられる。お雪をそれを見て悲痛に叫び、池に身を投じた。山賊が勝ち誇る中、若者とお雪は古くからこの池に住む龍神の力を借りて無念を晴らし、二人は結ばれ、燕子花(かきつばた)となって長者ヶ原を今も見守っているという悲恋の物語である。

(2019白銀の舞 多根神楽)